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カップの底に未来が見える 〜トルコ式コーヒー〜

[カテゴリ]
いれ方・技術
[著者]
香月 麻里
[掲載年月]
「月刊 珈琲人」 2003年01月号
希望に満ち溢れた新春の青き空を想わせる宝石・トルコ石。 実はトルコでは産出されず、ペルシア地方で採取されたものが、 トルコ商人の手を経てヨーロッパへ運ばれたためそう呼ばれるようになったと言います。 遥か昔、オスマントルコの洗礼を受けた有形無形の品々が トルコと言うフィルターを通してヨーロッパ世界へ運ばれて行ったわけですが、 その中に人々の心を酔わせたコーヒーがありました。 今月は占いもできるトルコ式コーヒーをご紹介しましょう。
■ 「トルコ式コーヒー」とは?
オスマントルコの首都コンスタンチノープル(現:トルコのイスタンブール)にコーヒー店が登場したのは1554年とされていますが、これはヨーロッパにカフェが出来るよりも一世紀余りも早い時代です。この頃から変わらぬスタイルのトルコ式コーヒーは、コーヒー好きの間でターキッシュ・コーヒーとも呼ばれ、比較的良く知られたスタイルではありますが、実際に飲んだことがある人はまだまだ少ないのではないでしょうか?

簡単に説明すると、“ジャズベ(CEZVE)”または“イブリック(IBRIK)”と呼ばれる真鍮や銅製などの小さなひしゃく型の抽出器具を使ってコーヒーを煮出し、コーヒーの粉を濾(こ)さずに上澄みをすすって飲む、と言ったものです。

それではトルコ式コーヒーの作り方から紹介しましょう。 コーヒー豆は深く炒った焙煎度合いのものを用意し、トルコ式ミルを使って小麦粉のようなパウダー状に挽きます。粉の分量は一人分8gが目安。砂糖はトルコの言葉で言うところの「チョク(たくさん)」「オルタ(中くらい)」「アズ(少量)」「サデ/シェケルスズ(砂糖なし)」のようにあらかじめ好みの分量を先に加えてしまいます。

ジャズベに杯数分のコーヒーの粉、好みの分量の砂糖を入れ、1杯分の目安を60〜70cc(小ぶりのカップ1杯分)として水を加えます。

弱火にかけ、スプーンで混ぜながら煮出してゆくと徐々に泡が出来てきます。一度沸騰させて火から降ろすと言う作業を2〜3回繰り返し、細かな泡が浮かび上がれば出来上がりです。

コーヒーの粉は濾さずに、そして泡を消さないようにカップにそっと注ぎ、粉がカップの底に沈むのを待ってから上澄みをいただきます。まったりとした味わいでコーヒー豆の個性を余すところなく楽しめる飲み方です。
■ 粉を濾さずに飲む理由
フィルターで濾したコーヒーを飲むことに慣れきった私たちにとって、トルコ式コーヒーの飲み心地は賛否両論でしょう。しかし、コーヒーの粉を濾す抽出方法の歴史は意外にも浅く、フランスでネル地の袋を使った1710年頃が始まりと言われています。その後1763年、パリのすず細工師ドルマルタンが、輪を取り付けたネル地の袋を容器の中に浸してからコーヒーを抽出させるポットを発明しました。
そしてようやく1800年頃、ドゥ・ベロワというパリの大司教がドリップポットを設計し、「コーヒーの粉を濾して飲む」というスタイルを普及させていったのです。

こうした歴史を経て、ペーパードリップや手軽なコーヒーメーカーが氾濫しきった現代になっても、なぜトルコでは変わらずコーヒーの粉を濾さずに飲むのかと、私は長いこと不思議に思っていました。そしてある日、友人とトルコ料理店で食事をした後に飲んだ1杯のコーヒーがその答えをくれたのでした。
上澄みを飲み干したカップの底にはドロリとコーヒーの微粉末が残るのですが、トルコではこのカップの底に溜まったコーヒーの粉で占いを行うのです。つまりコーヒーは単なる飲み物というだけでなく、日々の運勢を占うという役割も果たしていたのでした。
■ トルコ式コーヒー占い
飲み終えたコーヒーカップの縁にソーサーをかぶせてひっくり返し、カップの底に指を乗せてお祈りをします。器が冷めたら、カップの底から広がったコーヒーの粉の模様を見て占います。

*全体に流れていたら・・・ 好調に展開、周囲からの協力に期待が持てます。
*底に固まったまま・・・ じっと我慢の時、他人との論争は避ける。
*取っ手の方に流れていたら・・・ 大きな幸運に恵まれます。 直感力、想像力が冴えます。
*取っ手と反対の方に流れていたら・・・ 健康に要注意。
*飲み口の方に流れていたら・・・ 直感を過信せず、結論を急がずじっくりと考える。
※UCCコーヒー博物館第6展示室「トルコのコーヒー占い」より
■ 空気が生み出す美味しさ
トルコでは泡のないコーヒーをいれることは、料理が下手でたしなみに欠けるとされるらしく、そのため女性たちは、空気をたっぷり含んだ新鮮な水を用いたり、豆の焙煎状態を考慮したりと、いかに上手く泡を立てるかに気を配るそうです。

トルコ式コーヒーの泡をはじめ、泡を浮かべる飲み物と言うと、ミルクの泡たっぷりのカプチーノ、エスプレッソの表面に浮かぶ細かな泡のクレマ、日本のお抹茶のお薄などがうかびます。話はやや飛びますが、コーヒーの味覚や風味を鑑定する時は、スプーンですくったコーヒーを空気と一緒に吸い込み、霧状にして口の中全体で味わいなどを捕らえるようにします。つまり液体に空気を含ませて泡と化すことで、より味わいに膨らみを持たせ判断しやすい状態にするわけですが、先にあげた飲み物もそれと同様、泡と一緒に含むことでより美味しく感じることができるのかもしれません。
■ 世界一小さなコーヒー沸かしの持つ力
トルコをはじめ黒海沿岸各国では、今日でもコーヒーを使って占いを行なっていますが、新春の初コーヒーには、コーヒー豆にあやかって“何事にも豆々しく”と願をかけてみてはいかがでしょうか?
私が経験したコーヒー占いの結果ですが・・・。耳ざわりのよい言葉と共に耳を疑わんばかりの言葉、身に覚えのある出来事も見事に当てられ・・・、コーヒー占いの底知れぬ力強さを見せつけられ苦笑い。信じるか否かは、自分次第といったところでしょうが、決して揺らぐことのない気持ちに気づくことができた私にとって、ジャズベが、魔法のひしゃくにも思えたひと時でした。
参考資料:
◆「オールアバウトコーヒー」TBSブリタニカ
◆「コーヒーとコーヒーハウス」  ラルフ・S・ハトックス著 斉藤富美子・田村愛理訳 同文館
◆「"Coffee Makers" 300 years of art & design」  EDWARD & JOAN BRAMAH Quiller Press
◆「blend」"トルココーヒーの系譜" 松原正毅 柴田書店
◆「珈琲の本」JTBMOOK 味覚シリーズ4 JTB日本交通公社出版事業局

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