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情熱のエスプレッソ

[カテゴリ]
いれ方・技術
[著者]
馬場 通博
[掲載年月]
「月刊 珈琲人」 2005年02月号(珈琲究人[こーひーきわめびと]シリーズより)
イタリアで「CAFFE」と言えば“エスプレッソ”のこと。“バール”と呼ばれる立ち飲みコーヒー店に寄り、たっぷりと砂糖を入れたエスプレッソをサッと飲みほして仕事に出かける・・・そんなスタイルで日に何度も愛飲されるコーヒーです。
今回はエスプレッソ職人『バリスタ』のいれる“本物のエスプレッソ”について解説しましょう。

ボタンひとつで誰でも同じ味を抽出できるコーヒーマシンを「フルオート(全自動)」と言いますが、バリスタが使う業務用のエスプレッソマシンは一般的に「セミオート(半自動)」です。つまり全て機械任せではなく、コーヒーを挽いてセットして・・・とバリスタの手が入るわけです。

業務用のエスプレッソマシン    と    エスプレッソ用のコーヒーミル

エスプレッソはペーパードリップなどと違い、蒸気圧をかけながら抽出します。抽出温度約90℃〜92℃、圧力約9気圧。バリスタはこの条件下のマシンで最高のエスプレッソをいれることに情熱を注ぎます。
抽出手順を簡単に説明すると・・・
   1) エスプレッソ専用のミルで豆を細かく挽く
   2) 金属フィルターに定量のコーヒー粉を入れ、圧縮しながら詰める
   3) フィルターの入ったホルダーをマシンにセットして抽出する

となります。

優秀なバリスタは実にすばやくスムーズに抽出作業を行いますが、この何気なくやっている動きの中においしいエスプレッソの理由がひそんでいるわけです。バリスタの手元を追いながらいくつかポイントを絞って解説しましょう。

とその前に。科学的な視点からエスプレッソの特徴についてお話しておきましょう。

以前コーヒーは“多孔質”だと説明しました。当然、挽いて粉になっても多くの孔(あな)=隙間があります。エスプレッソは、フィルターに詰めたコーヒーの粉の隙間を湯が通り抜けることで抽出されます(抽出時間も一般的には20〜30秒と決められています)。この湯が通り抜ける時に溶け出す“水溶性の成分”と“不溶解性オイル”などが“乳化現象”を起こすことで粘ばり気のある液体が得られ、エスプレッソの味を決定するのです。エスプレッソの表面を覆うキメ細かい泡“クレマ”が、スプーンでかき混ぜても消えない程しっかりしているのは、乳化して粘度のある液体が泡立っているからです。

バリスタはこの流体力学の妙を感覚的に理解した上で、コーヒー豆自体が持つ特徴、挽いた時の粒度、量、フィルターに詰めるコーヒーの粉の形状や固さを決め、最高の一杯をいれているというわけです。

では、バリスタの抽出手順を追いながら、おいしいエスプレッソになる理由を解説していきましょう。
■ バリスタ視線で(1) コーヒー豆を選ぶ 〜挽く
シティロースト
フルシティロースト
イタリアンロースト
下へいくほど、より焙煎が深い
コーヒー豆は新鮮な豆を使うことは勿論ですが、ペーパードリップ等で使うものよりも深めに焙煎した豆を使います。焙煎度合いは地域によって微妙に異なります。

アメリカ・シアトルなどから誕生したチェーン店で多く使われているのはイタリアンローストと呼ばれる最も深く焙煎したタイプ。本場イタリアでは、それよりも少し浅めのシティローストからフルシティロースト程度に焙煎したタイプが多く使われています。
UCCのエスプレッソ豆製品(業務用)。ブレンドと焙煎度合いを変え、イタリア系・シアトル系など各地のタイプに合わせた味覚にしている。
コーヒー豆はエスプレッソ専用のコーヒーミルで、いれる直前に細かく挽きます。細かくするのはフィルター内での湯圧の力と、フィルターに詰められたコーヒーの粉を通過する時のバランスを良くするためで、これは非常に重要なポイントです。
バリスタにとって、このコーヒーの粉の細かさ(粒度)と量(1杯あたり約6g〜9g)を見極めるのが、最も難しい関門と言えるでしょう。


■ バリスタ視線で(2) 粉を詰め、マシンにセットする
ペーパードリップで抽出する時、ドリッパーを振って粉の表面を平らにならしますね。エスプレッソマシンの場合は、ホルダーの中にセットされている無数の細かい穴が空いた金属製のフィルター(写真)に、“タンパー”という器具で圧力をかけながらコーヒーの粉を詰め込みます。この作業を“タンピング”と言います。かける圧力は15〜20キロ程度。強すぎても弱すぎても、またどちらかに粉が偏ったりしてもいけません。この加減もバリスタ次第になるわけです。

バリスタの手元をクローズアップ! 〜タンピングしてマシンにセットするまでの流れ〜

[1]
まず、マシンから外したホルダーの中のコーヒーのかすを捨てる。
[2]
金属フィルター部分に適量の粉を入れる。
[3]
タンパーでホルダーを軽く叩いて粉をならす。
[4]
ホルダーを平行に保ちつつ、まず一度軽くタンピングする。
[5]
ホルダーの縁を叩いて軽く固めた表面をならす。
[6]
今度は15〜20kgの圧力をかけながら平均的に固めるようにタンピング!
[7]
ホルダーのふちにはみだした粉は必ず拭きとる。
[8]
タンピングした状態。固めた粉の部分を“ケーキ”と呼ぶ。
[9]
抽出装置から一度お湯を出して装置を温める。片手でマシンを支えながらホルダーをしっかりとセットする。

ちなみにバリスタは、日々使い始める際にまず試験抽出を行いますが、抽出後もコーヒーのかすが入ったホルダーをマシンから外さず常にセットした状態にしておきます。注文が入ったら、一度抽出ボタンを押して湯を出しホルダーがセットされたまま湯の出てくるヘッド部分を温めます。それからホルダーを外してコーヒーかす(ケーキ)を捨てるのです。つまり次の一杯を抽出するまで前のコーヒーを抽出し終わったままの状態にしておくわけです。これは(1)ホルダー内の金属臭をコーヒーかすで脱臭する、(2)ホルダーが冷えないように保温させておく、の2つの意味があります。
■ バリスタ視線で(3) 抽出する
正常な抽出
(ハチミツが流れる速さ)
遅すぎる抽出
速すぎる抽出
タンピング後、ホルダーをマシンにしっかりとセットしたら、バリスタは速やかに抽出ボタンを押します。このとき決してもたもたしていてはいけません。そしてコーヒー液が抽出される状態を見て出来のよしあしを判断します。

抽出されたエスプレッソ1杯あたりの量はおよそ25〜30cc。9気圧の圧力がフィルター内の粉(ケーキ)に吸収されて、正しい抽出状態になっていると、液体の流れるスピードはちょうど“スプーンからハチミツをたらしたぐらいの速さ”になります。

1杯分は20〜30秒程度で抽出されますが、抽出時間が長いと余計な雑味まで出てしまいます。逆に短時間だと、シャバシャバのエスプレッソになり、美しいクレマも出来ません。
これはフィルターに詰められた粉(ケーキ)の中をお湯が速く通過してしまって、先ほど説明した“乳化”が行われなかったためなのです。

こうして出来上がったおいしいエスプレッソの条件を簡潔にまとめると3つのポイントがあげられます。

POINT!
■キメ細かくクリーミィで、スプーンでかき回しても消えないしっかり としたクレマ(泡)が液面を覆っていること。
■1杯あたり約25cc〜30ccであること。(
■飲んだ後、口の中いっぱいに広がるアロマ(香り)があり、味のバラ ンスがいいこと。
※一般的な「エスプレッソ・ソロ(シングル)」の量。  ちなみに2倍の量は「エスプレッソ・ドッピオ(ダブル)」と言う。

ミラノスタイルのバール「カフェラ神戸大丸店」
嫌な苦味を感じたり、飲んだ後味の悪いものはおいしいエスプレッソとは言えません。 本場のように砂糖をたっぷり入れ、掻き混ぜて飲んでみると、意外に美味しいものと美味しくないものが解ります。普段愛飲しているエスプレッソはいかがですか?
■ おうちでおいしくいれるには…?
較的安価に販売されるようになったので、直火式のエスプレッソ器具や家庭用サイズのエスプレッソマシンを持っている方も増えているようです。今回はプロの手順を追って解説しましたが、ご家庭でも“バリスタ視線”で抽出すると、よりおいしいエスプレッソが作れます。

直火式タイプ
まず、焙煎度の深い豆を使う、いれる直前に挽く・・・などは必ず守りたいところです。エスプレッソは豆を細かく挽く分、粉の表面積が大きくなり、早く劣化が進んでしまいます。挽き売り店で「エスプレッソ用に」と言って極細挽きにしてもらうこともできますが、ご家庭で器具を持っているのならば、できるだけエスプレッソ専用のミルもそろえ、抽出直前に使う分だけ挽くようにしてください。
家庭用小型マシン
分量に合ったコーヒーの粉とお湯をセットしてガスコンロにかけるだけなので比較的簡単ですが、とても熱くなるので取り扱いには注意が必要です。しかし、このタイプの器具の場合は乳化現象は起こせないので残念ながらクレマ(泡)はできません。エスプレッソの濃厚な味わいのみを楽しむものとしてください。

フィルターに粉を詰める時は、バリスタの技“タンピング”を参考にして適度な圧力をかけて平らになるように詰めます。また抽出時にもコーヒー液がハチミツが流れる程度の速さになっているかどうかチェックします。小型ながら上手にいれられればクレマも作れます。

エスプレッソ用のカップ「デミタス」
エスプレッソを受ける器は、小容量(カップ満水で50〜60cc程度)サイズのカップ「デミタス」を使うと良いでしょう。
イタリアにて珈琲究人・馬場
エスプレッソにうるさいイタリアでは、たいていの人が行きつけのバールを持っています。また商品価値の低いエスプレッソを出したバールには2度と足を運びません。それだけおいしいコーヒーが大切であり、おいしいコーヒーが日々の活力になっているということなのでしょう。

これまで4回にわたって、コーヒーの器具別の抽出方法を解説してきましたが、皆さんのコーヒー生活のお役に立てたでしょうか。「ただいれる」のでも、「ただ飲む」のでもなく、おいしいコーヒーをいれる努力をし、おいしいコーヒーと過ごす時間を楽しみたいと思う。まずはそれが大切です。

コーヒーは探究の手をゆるめるヒマがありませんし、おいしいコーヒーをいれるための近道もありません。あえて言うなら、正しい知識を持ち、技術の向上を目指しながら、毎日心を込めてコーヒーをいれること。それが至福の味をつかむ一番の近道なのかもしれません。
【究人(きわめびと)に聞きたい】
エスプレッソを使ったアレンジメニューで、家庭でも簡単に作れるおすすめレシピがあったら教えてください。
では、バレンタインにもおすすめの家庭でのレシピを。

『マイ・ファニー・バレンタイン 〔 by CHET BAKER 〕』・・・1杯分

材料
エスプレッソ・・・抽出したもので20〜30cc
牛乳(フォームドミルク)・・・100〜120cc
ホイップ用クリーム・・・適量(好みで砂糖少々)
チョコレートリキュール・・・少々
飾り用の板チョコ、スティック状のチョコ菓子・・・各少々

作り方
1: 板チョコはスプーンやナイフ等で削っておきます。
2: ホイップクリームを泡立てておきます(甘さはお好みで)。軽く角がたつ7〜8分立てにしておきましょう。
3: デミタスではない大きめのカップにエスプレッソを抽出します。エスプレッソ用マシンに付属しているスチーマーを使って、牛乳でフォームドミルクを作ります。エスプレッソの上に注いでカプチーノを作ります。
4: その上にホイップしたクリームを浮かべ、チョコレートリキュールをかけ、チョコレートを飾って出来上がり。
究人語録 file no.10
「ローマは一日にして成らず…ブルータスお前もか!」

イタリアは文化遺産の宝庫であり、芸術や音楽に溢れ、憧れのフェラーリも石畳の街並みに似合うこと、似合うこと・・・実にうらやましい限り。

エスプレッソの追求も一日にしては成らず。
珈琲究人も一日にして成らず。(好奇心の塊になれ!)
ファンの皆様、お前もか?(失礼!)と珈琲究人の仲間入りですね。

今後ともよろしく。春告げ鳥の声を聞けば暖かくなります。
くれぐれもパブロッティのような割腹のいいスタイルにならないようにおいしいものを食べながら、今日も好奇心の寄り道です。

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